
親が元気なうちは、実家が空き家になる場面をあまり考えたくないですよね。施設へ入る、子どもと同居する、相続が起きる。いつか可能性はあると分かっていても、こちらから「その家、将来どうする?」とは切り出しにくいです。
私も親の介護や実家じまいを経験した立場ではありません。だから、片付けや売却を簡単な作業のように話すつもりはないです。思い出がある家を、費用と効率だけで決められない気持ちはあると思います。
それでも、誰も住まなくなってから登記名義、鍵、保険、固定資産税、境界、家財を一度に確認するのはかなり大変です。親の希望が分からないまま、子ども同士で売るか残すかを話すのも落ち着きません。
今回は、実家を今すぐ処分する話ではなく、親が元気なうちに何を聞き、空き家になった最初の1か月に何を確認するかを整理します。売る・貸す・残す・解体の結論より先に、選べる状態を残すための準備です。
実家の話は「処分」ではなく、親がどこで暮らしたいかから始める
実家について話すとき、子ども側は「空き家になったら売る?」「片付けはどうする?」と結論を急ぎがちです。でも親から見れば、今住んでいる家を処分する相談に聞こえるかもしれません。元気なのに追い出されるような気持ちになれば、話したくなくなるのも自然です。
最初に聞きたいのは、家をどう処分するかではなく、これからどこで暮らしたいかです。できる限り今の家に住みたいのか、階段や庭の管理がつらくなったら住み替えたいのか、施設へ入っても戻る可能性を残したいのか。住まいの希望を先に聞きます。
これ、正解をその場で出してもらう必要はないと思います。「まだ考えていない」も一つの答えです。一度話題にしたことがあれば、雨漏りや通院、庭の手入れなど暮らしの変化が出たとき、次の話をしやすくなります。
- この家で、できるだけ長く暮らしたいか
- 管理が難しくなったら、どこで暮らしたいか
- 家を子どもへ残したい気持ちはあるか
- 大切に残したい物は何か
- しばらく空ける場合、誰に見てもらいたいか
親の言葉を聞いたうえで、子ども側も正直に伝えます。将来そこへ住む予定があるのか、遠方で定期管理ができるのか、維持費を負担できるのか。期待させないためにも、「たぶん住まないけれど、今すぐ売ってほしいわけではない」と今の考えを分けて話します。
実家じまいの準備は、家を手放す説得ではなく、親の希望と子どもができることの両方を知るところから始めます。
親の介護費用や住まいの希望を一緒に考える順番は、親の介護費用を教育費・老後資金と分けた記事でも整理しています。家だけを切り離さず、親の年金、預貯金、介護の希望と合わせて見たいです。
登記・書類・維持費を、元気なうちに1枚へ集める

方針が決まっていなくても、家の基本情報は集められます。登記名義が親だと思っていたら、亡くなった祖父母のままだった。土地が一筆だと思っていたら、私道持分や別の畑があった。こうしたことは、売却や相続の段階で初めて分かると確認に時間がかかります。
| 項目 | 確認するもの | メモしたいこと |
|---|---|---|
| 所有・登記 | 登記事項証明書、権利証・登記識別情報 | 名義人、土地と建物、共有者 |
| 税金・費用 | 固定資産税通知書、光熱費、保険 | 年間額、引落口座、更新月 |
| 土地・建物 | 図面、測量図、建築確認、修繕記録 | 境界、増改築、雨漏り、設備故障 |
| 管理 | 鍵、近隣連絡先、業者連絡先 | 合鍵の場所、庭、郵便、換気 |
| 家財 | 通帳・証券とは分けた家財一覧 | 残す物、処分してよい物 |
書類そのものを子どもが持ち去るのではなく、親の了承を得て「どこにあるか」を1枚へ記録します。親のお金や家を子どもが管理する権利をもらう話ではありません。必要なときに本人と一緒に探せる状態を作るだけです。
年間維持費もざっくり出します。固定資産税、火災保険、電気・水道の基本料金、庭木の手入れ、見回り交通費、修繕費。今は親が日常の中で払っていても、空き家になると一つ一つが「管理のための支出」として見えてきます。
たとえば固定資産税12万円、保険3万円、基本料金6万円、庭・清掃8万円、見回り交通費6万円なら、年35万円です。これは例であり、地域や建物で大きく違います。売却まで1年かかるだけでも負担になるため、実額を通知書や明細で確認します。
家の価値は査定額だけではなく、「誰が、毎年いくらで、どれだけ手間をかけて守るか」まで含めて見ます。
夫婦でも親の家の情報を片方だけが抱えると、急な入院や出張で動けないときに止まります。自分たちの家計を共有する方法は、夫婦の家計管理で大切にしている共有方法と同じです。細部まで管理しなくても、重要書類の場所と年間の大きな費用は二人で見えるようにします。
空き家になった最初の1か月に、管理する人と連絡先を決める
親の入院や施設入居で、予定より早く実家が空くことがあります。そのとき売却や相続の結論を急ぐより、まず事故や傷みを防ぐ最低限の管理を決めます。家は誰も住まないだけで、郵便、庭、換気、水漏れ、防犯の問題が残ります。
- 親の意向と、戻る可能性を確認する
- 所有者、鍵、火災保険の連絡先を確認する
- 郵便物の転送・回収方法を決める
- 電気・水道・ガスを止めるか最低契約を残すか確認する
- 月1回など見回りの担当と記録方法を決める
- 庭木、雨漏り、害虫、防犯の状態を写真で残す
- 近隣へ、緊急時の連絡先を必要な範囲で伝える
ライフラインは一律に全部解約すればよいわけではありません。清掃や換気に水と電気が必要な場合もありますし、凍結防止や設備の契約条件もあります。ガスや給湯器は安全面もあるため、各事業者や管理業者へ空き家になることを伝えて確認します。
火災保険も、住んでいたときの契約が空き家で同じように続くとは限りません。使用状況の変更を保険会社へ伝え、補償範囲と継続可否を確認します。「保険料を払っているから大丈夫」と思い込まないようにしたいところです。
兄弟姉妹がいるなら、近い人へすべて任せないようにします。現地確認、費用の記録、親との連絡、業者への問い合わせ、書類の整理は分けられます。遠くに住む人が費用や電話対応を受け持つ方法もあります。
正直、役割が完全に同じになることはないと思います。移動時間も仕事も家族事情も違います。公平を回数だけで測らず、誰が何をして、いくら立て替えたかを共有します。実家専用のメモへ日付、作業、写真、費用を残すだけでも、後から「聞いていない」を減らせます。
売る・貸す・残す・解体を、収入だけで比べない

空き家になった後の選択肢は、大きく売る、貸す、しばらく残す、建物を解体して土地を活用・売却する、の四つです。どれにも費用と手間があり、家の場所、状態、権利関係、親の希望で向き不向きが変わります。
| 選択肢 | 先に見ること | 見落としやすい負担 |
|---|---|---|
| 売る | 名義、査定、境界、家財、税金 | 修繕・解体条件、仲介費用、合意形成 |
| 貸す | 需要、改修費、管理会社、契約 | 空室、修繕、入居者対応、戻りにくさ |
| 残す | 使う期限、管理者、年間維持費 | 劣化、防犯、庭、遠距離の見回り |
| 解体する | 解体費、接道、土地需要、補助制度 | 家財処分、税負担の変化、再建築条件 |
売却するなら、査定額だけでなく手取りを見ます。仲介手数料、測量、家財処分、修繕・解体、譲渡所得の税などが動く可能性があります。相続した空き家には一定要件で譲渡所得から最高3,000万円を控除する特例がありますが、実家なら自動で使える制度ではありません。
国税庁の被相続人の居住用財産を売ったときの特例には、対象家屋、相続後の利用、売却時期、耐震・除却など細かな要件があります。2024年以後の譲渡で相続人が3人以上なら控除上限が2,000万円になる場合もあります。売却前に税務署や税理士へ個別条件を確認した方が安心です。
貸す方法も、家賃がそのまま利益になるわけではありません。入居前の改修、設備故障、固定資産税、保険、管理委託、空室期間があります。親が戻りたい時期や売りたい時期に賃貸借契約が続いている可能性もあるため、契約の種類と期間を専門家へ確認します。
しばらく残すなら、期限を決めます。「気持ちが整理できるまで」は大切ですが、次の確認日がなければ何年も過ぎます。半年後に親の体調と戻る可能性を見る、1年後に査定と維持費を更新する、など、結論ではなく見直す日を決めます。
売る・貸す・残す・解体の比較では、得られるお金だけでなく、家族が負う管理時間と「いつまで続けるか」を必ず横に置きます。
放置すると、費用より先に選択肢が減っていく
空き家をそのままにすると固定資産税だけがかかる、と思いがちです。実際には、雨漏りや湿気、庭木、害虫、設備の劣化が進むと、売るにも貸すにも追加費用が出ます。近隣へ枝や瓦が落ちれば、家族の問題だけでは済みません。
国土交通省によると、市区町村から「管理不全空家」または「特定空家」への指導を受け、改善せず勧告を受けた敷地は、固定資産税などの住宅用地特例を受けられなくなります。小規模住宅用地では課税標準が通常6分の1になる特例ですが、「空き家になったら税額が必ず6倍」と単純には言えません。実際の税額は自治体へ確認します。
また、2024年4月から相続登記が義務化されています。不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請し、正当な理由なく違反した場合は10万円以下の過料の可能性があります。2024年4月より前の未登記相続も対象です。
相続人同士の話し合いがまとまらず期限内の相続登記が難しい場合には、「相続人申告登記」という制度もあります。ただし、これで遺産分割や最終的な名義変更がすべて終わるわけではありません。法務省の相続登記の申請義務化に関するQ&Aを確認し、法務局や司法書士へ相談します。
こうした制度を怖がらせる材料にはしたくありません。大切なのは、実家が空いたその日に売ることではなく、所有者と管理者を曖昧にしないことです。名義を確認し、家を見に行く人を決め、半年後の判断日を置く。それだけでも放置とは違います。
親の家へ費用を出すと、自分たちの老後資金にも影響します。修繕や維持を続けるなら、親のお金から出す範囲、子どもが補う上限、兄弟姉妹の分担を記録します。自分たち自身の将来の医療・介護費は、FIRE後の医療費・介護費を老後資金と分けた記事のように別枠で守り、実家の維持費と混ぜないようにしたいです。
決められないときも、所有者・管理者・費用・次の確認日の四つだけは空欄にしないようにします。
次の帰省で、15分だけ実家の未来を話してみる
実家の話を一度で終わらせようとすると重くなります。相続、介護、家財、売却をまとめて聞けば、親も身構えます。次の帰省では、15分だけ、暮らしの延長として一つ聞くくらいでよいと思います。
たとえば「庭の手入れ、最近大変じゃない?」「雨漏りしたときはどこへ頼んでいる?」「固定資産税の通知はどこに置いている?」なら、今の困りごとから入れます。そこから「しばらく家を空けることになったら、誰に見てほしい?」へ進めます。
聞いた内容は、親の前で短くメモします。登記名義、通知書の場所、鍵、保険会社、修繕業者、大切にしたい物。分からない項目は空欄でかまいません。空欄が見えれば、次回一緒に確認できます。
兄弟姉妹へ共有するときも、「売ることに決まった」ではなく、「親は今の家に住み続けたい。もし空いたら半年は残したいと言っている。維持費と鍵は次回確認する」と事実と希望を分けます。誰かの解釈だけで結論が進むのを防ぎます。
親の実家が空き家になったとき、すぐに正解を選べる家族ばかりではありません。思い出も、親の気持ちも、子どもの生活もあります。迷うこと自体は悪くないです。ただ、迷っている間も家は傷み、費用と管理責任は続きます。
だから私は、処分方法を急ぐのではなく、選べる状態を守りたいです。親の希望を聞く。名義と書類を確認する。年間維持費を出す。空いた初月の管理者を決める。そして、次に話す日を決める。この順番なら、親を置き去りにせず、子ども側も全部を抱え込まずに済みます。
最初の一歩は、次の帰省で「この家で、これからも長く暮らしたい?」と聞くことです。売るかどうかは、その日に決めなくて大丈夫です。親の答えを一つ聞き、固定資産税の通知書がどこにあるか確認する。実家の未来を考える日は、そのくらい小さく始めたいです。