
親が倒れた。病院から何度も電話が来る。実家のことも分からない。そんな状況になれば、「もう仕事を辞めるしかないのかな」と考えてしまいますよね。
仕事を続けたい気持ちがあっても、親を放っておくようで罪悪感がある。職場へ迷惑をかけるのも怖い。正直、ここで悩む50代は多いと思います。まだ介護が始まっていなくても、遠い話ではありません。
私自身、会社員を辞める判断で一番怖いのは、定期的な給料がなくなることです。介護費だけでなく、教育費や住宅、自分たちの老後も続きます。焦って退職すると、親を支える家計の土台まで細くなるかもしれません。
そこで私は、緊急時に退職するかどうかを決め切らず、まず30日だけ退職届を保留し、家族が毎日付き添わなくても介護が回る形を作ると考えます。続ける、働き方を変える、辞めるの判断は、その後でも遅くありません。
親の介護が始まると「自分がやるしかない」と思いやすい
介護は、予定表どおりに始まりません。転倒、入院、認知機能の変化、親からの助けを求める電話など、急に生活へ入ってきます。情報がないと、子どもが全部引き受けるしかないように見えます。
特に最初の数日は、病院、実家、会社を行き来しながら決めることが増えます。親の状態、退院先、薬、支払い、鍵、食事。ひとつ終わると次が出てきて、仕事へ戻る姿が想像できなくなるかもしれません。
ここで仕事を辞めれば、時間は増えます。ただ、介護の期間は読めません。退職しても夜間の不安や親子関係の負担がなくなるとは限らず、収入、厚生年金、職場とのつながりは失われます。
だからといって、「何があっても辞めるな」と言いたいわけではありません。親の安全、自分の心身、職場の状況によっては、休職、転職、退職が現実的なこともあります。大事なのは、最も混乱している日に一生分の判断をしないことです。
介護が始まった直後は、退職届より先に「今日から30日をどうつなぐか」を決めます。
私なら会社へ、「親の介護が始まりました。退職を決める前に、使える制度と今月の働き方を相談したいです」と伝えます。状況を全部説明できなくても、この一文なら相談を始められます。
介護休業と介護休暇は、使う場面が違う

育児・介護休業法には、介護休業、介護休暇、所定外労働の制限、時間外労働や深夜業の制限、短時間勤務等の仕組みがあります。名前が似ているので、まず介護休業と介護休暇を分けます。
| 制度 | 使う場面 | 法定の範囲 | お金の確認 |
|---|---|---|---|
| 介護休業 | まとまった期間に両立体制を作る | 対象家族1人につき3回、通算93日 | 一定要件で休業開始時賃金日額の67%相当の給付 |
| 介護休暇 | 通院付き添い、手続き、短い打合せ | 家族1人なら年5日、2人以上なら年10日。1日・時間単位 | 有給か無給かは会社規定 |
介護休業の93日を見ると、「93日しか介護できないの?」と感じますよね。でも厚生労働省は、この期間を家族が介護に専念し続けるためではなく、仕事と介護を両立できる体制を作る準備期間として案内しています。
つまり、地域包括支援センターへ相談し、介護認定やサービスの手続きを進め、ケアマネジャーと打ち合わせ、家族の役割と緊急時の連絡順を決める時間です。家族が一人で介護技術を身につけるだけの休みではありません。
介護休暇は、ケアマネジャーとの短時間の打合せや通院付き添いなど、点の用事に使えます。時間単位で取れる制度でも、業務や労使協定による扱いがあります。給与が出るかも会社ごとに違います。
介護休業を「自分が毎日介護する期間」だけにすると、復職する日に同じ問題が戻ってきます。
2025年4月からは、介護離職防止のため、会社に雇用環境の整備、介護に直面した労働者への制度の個別周知と意向確認、40歳等での早期情報提供が求められています。介護のためのテレワーク導入も努力義務になりました。
制度があっても、自分の勤務先でどう申し出るかは就業規則を見ます。上司へ話しにくいなら、人事や相談窓口、労働組合へ直接聞く方法もあります。制度利用を申し出たことを理由とする不利益な扱いで困った場合は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)が相談先になります。
最初の7日で、病院・地域・会社をつなぐ
介護が始まった最初の一週間に、すべてを決めるのは無理です。私なら「親の安全」「支援の窓口」「今週の仕事」の三つへ絞ります。
1日目から2日目は、今夜と次の受診だけ決める
親が一人で過ごせるのか、薬と食事はどうするか、転倒や火の危険はないか。緊急性が高いときは病院や救急、自治体の窓口へつなぎます。親族の都合を全部調整するより、まず今夜を安全に越える方法を決めます。
入院中なら、医療ソーシャルワーカーや退院支援の担当者へ「家族は仕事を続けたい。退院後を家族の付き添いだけで回すのは難しい」と伝えます。きれいに説明できなくても、この条件は早めに共有したいです。
3日目から5日目は、地域包括支援センターへ相談する
親が住む地域の地域包括支援センターは、高齢者の介護や生活に関する相談窓口です。介護認定がまだでも、どこへ連絡し、何を準備するかを相談できます。認定後はケアマネジャーとサービスを組み立てます。
別居しているなら、毎日通える前提にしません。「週に何回来られるか」「夜間は難しい」「仕事中は電話に出られない」と伝えます。できないことを隠すと、最初から家族の無理に頼る計画になりやすいです。
5日目から7日目は、会社へ今月の働き方を相談する
会社には、親の病名や家庭事情を細部まで話すより、必要な調整を伝えます。「今月は週1回の通院付き添いがある」「夕方の残業が難しい」「介護休業を分けて使えるか確認したい」と具体化します。
これ、職場へ迷惑をかけるようで言いにくいですよね。でも突然休み続けるより、分かる範囲で予定と連絡方法を共有した方が、仕事を引き継ぎやすいです。介護の状態は変わるので、「次の見直し日は2週間後」と期限も置きます。
家族が介護する時間ではなく、介護が回る仕組みを作る

両立の目標を「私が毎日実家へ行く」にすると、仕事との衝突が増えます。私なら、一週間を家族の時間と外部サービスで埋めるのではなく、親の生活に必要な機能を分けます。
| 必要な機能 | 候補 | 家族が決めること |
|---|---|---|
| 食事・服薬 | 配食、訪問介護、薬局の支援 | 見守りが要る時間 |
| 入浴・日中活動 | 通所介護など | 送迎と持ち物 |
| 医療 | 通院、訪問診療、訪問看護 | 緊急連絡先 |
| 安全 | 福祉用具、住宅改修、見守り | 鍵と連絡方法 |
| 家事 | 訪問介護、民間サービス | 本人が望む範囲 |
| 家族連絡 | 共有メモ、週1回の確認 | 代表者と更新日 |
兄弟姉妹がいる家庭でも、近くに住む人へ全部寄せない方がいいです。遠方の家族は、費用の確認、書類、ケアマネジャーとのオンライン連絡、定期的な帰省などを担当できます。「手を動かす時間」だけが介護ではありません。
親本人の希望も聞きます。サービスを嫌がるから家族が全部やる、とすぐ決めるのではなく、何が嫌なのかを小さく分けます。知らない人が家へ入るのが嫌、曜日が合わない、費用が不安など、理由によって別の方法を探せます。
親が「まだ介護なんていらない」と拒むこともあります。子ども側が正論で説得し続けると、話そのものを避けられるかもしれません。私なら、困っている場面を一つだけ選び、「買い物の日だけ」「薬の確認だけ」と小さく試します。
本人が選べる余地も残します。曜日、担当者の性別、訪問か通所か、家族が同席するかを選べるだけで、受け入れやすくなることがあります。緊急性が高いときは安全を優先しつつ、本人抜きで全部を決めないようにしたいです。
「家族ができること」ではなく、「家族が半年続けられること」を分担の上限にします。
最初の案は一週間だけ試します。遅刻が何回出たか、夜に眠れたか、親の転倒や服薬忘れがないか、家族の不満がどこに出たかを記録します。うまく回らなければ、家族の根性を増やすのではなく、サービス、時間、住まいを見直します。
正直、きれいな分担表を作っても崩れる日はあります。介護は予定外が起きます。だから、担当者だけでなく「その人が無理な日の代替連絡先」を決めておくと、誰か一人が限界になるのを防ぎやすいです。
別居介護では、移動時間も負担表へ入れます。片道二時間の訪問を「週一回だから大丈夫」と数えると、実際には一日仕事です。交通費、翌日の疲れ、子どもの予定まで含め、訪問回数を決めます。
退職前に、家計への二つの負担を数字にする
親の介護で仕事を辞めるか考えるとき、介護費だけを見てはいけません。家計には「増える介護費」と「減る自分の収入」が同時に来ます。
介護費には、サービスの自己負担だけでなく、実家への交通費、食事、日用品、住宅の調整、見守り、家族の宿泊などがあります。退職すれば、給与だけでなく賞与、会社負担の社会保険、将来の厚生年金、再就職時の条件へ影響する可能性もあります。
| 比較する案 | 今月の収入 | 介護費 | 半年後に見ること |
|---|---|---|---|
| 仕事を続け制度利用 | 給与減少の範囲を確認 | サービス費と家族費 | 働き方と介護が回るか |
| 休業・休職 | 給付・会社制度を確認 | 体制構築中の費用 | 復職条件とサービス定着 |
| 勤務を減らす・転職 | 手取り見込額 | 不足時間をサービスで補う費用 | 社会保険と継続性 |
| 退職 | 退職後収入と給付 | 家族が担う時間を含める | 再就職、自分の老後資金 |
親の介護費をどこから出すかは、親の介護費用を教育費・老後資金と分けた記事で、親のお金と子ども世帯のお金を混ぜない考え方から確認できます。
休業や勤務減で収入が下がる期間に備える現金は、50代の生活防衛資金を何か月分持つか考えた記事を土台にします。介護用の予備費と、家族の生活費を分けて見えるようにしたいです。
また、親の介護に集中するあまり、自分たちの老後の医療・介護費をゼロにしないことも大切です。長い目で見た備えは、自分たちの医療費・介護費を老後資金と分けた記事へつなげて確認できます。
数字を出すと、「親よりお金を優先するのか」と苦しくなるかもしれません。でも、子ども世帯が生活できなくなれば、介護を続ける力も落ちます。家計の確認は冷たい判断ではなく、支援を長く続けるための線引きだと思います。
説明用の仮置きでも構いません。仕事を続けた場合、三か月休んだ場合、退職した場合の手取りを月単位で並べ、そこへ介護費と交通費を置きます。退職案だけが赤字なら、退職以外の体制をもう一度探す理由になります。
反対に、制度を使っても夜間対応が続き、自分の治療や家族の生活が崩れるなら、その負担も数字の外へ追い出しません。勤務時間を減らす、近くへ転職する、住まいを変えるなど、退職と現状維持の間にも選択肢があります。
30日後に、続ける・変える・辞めるを停止線で判断する
30日たったら、「仕事を続けられたか」だけで合否をつけません。親の安全、自分の健康、職場、家計、サービスの五つを見ます。
- 親の食事、服薬、転倒などに重大な危険が残っていないか
- 自分や配偶者が眠れず、体調を崩していないか
- 突発対応が一人に集中していないか
- 会社との調整が現実に機能しているか
- 介護費と収入減を半年続けられるか
- 親本人が今のサービスや住まいをどう感じているか
危険が残るなら、家族の付き添いを増やす前に、ケアマネジャーや地域包括支援センターへ再相談します。サービスの回数、訪問の時間、福祉用具、短期入所、住まいの選択肢など、組み直せる部分を探します。
職場で制度が使えない、嫌がらせがある、心身が限界という場合は、続けることを正義にしません。社内窓口、労働組合、労働局などへ相談し、休職、配置変更、転職、退職を含めて安全な道を選びます。
仕事を続けるために親や自分の安全を犠牲にする必要はありません。ただし、退職だけを最初の選択肢にしないことです。
私なら次の7日間で、①会社の制度一覧をもらう、②地域包括支援センターへ電話する、③親の一週間の困りごとを書く、④家族が半年続けられる分担を決める、⑤30日後の再判定日をカレンダーへ入れます。
介護は、一度決めたら同じ形が続くものではありません。親の状態、サービス、仕事、家族の体力が変われば、やり方も変えます。完璧な両立ではなく、その時点で一番壊れにくい形へ更新していけばいいと思います。
再判定日は、問題が起きた日だけにしません。最初の一か月は毎週、その後は月一回など、何も起きていない日にも見直します。家族会議は長くせず、「続けること」「やめること」「次に専門職へ聞くこと」の三つだけ残します。
退職するかどうかを今日決める代わりに、相談先を一つ増やす。それだけでも、「自分が全部やるしかない」という状態から少し離れられます。まずは親が住む地域の地域包括支援センターと、会社の介護相談窓口を調べるところからで十分です。